数々の映画の舞台となった尾道。そんな映画の町と呼ばれる地に、それは誰にも気に掛けられる事も無く佇んでいた。








 尾道駅のすぐ近くの路地にそれはあった。それは閉館した映画館。かつては映画を観に人が行き来していたのだろうが、現在は誰にも見向きもされず、そこに取り残されていた。

 鉄筋コンクリートで建てられた無機質な建造物。しかしそんな無機質な外観にも関わらず、建造物というのはある種生物的な側面も持ち合わせているような気がしてならない。人が行き交う場所は活気に溢れ、建造物も色鮮やかなのだが、人の行き来を失った場所は色彩を失い、色褪せてゆく。建造物にとって人とは生物でいう所の「血液」なのでは無いだろうか。



(クリックするとある場所をクローズアップします)



 入り口は当然封鎖されているので入る事は叶わなかったが、扉を挟んだ向こうの薄暗さは人の来訪を拒絶している気がしてならない。受付窓口はカーテンで完全に遮断されていて、中の様子を知る術はない。かつて、この窓口で「大人1枚」とか言いながらチケットを買う人が軒を並べていたのだろうか。

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